フィールドノート

霧がかかるなか、カラマツ林沿いの道を歩いていると、アカハラ(スズメ目ヒタキ科)に出会いました。

アカハラ
アカハラ

霧の日は見通しが悪いので、鳥はあまり飛ばずにじっとしていることが多く、思いがけなく近くで観察することができました。

アカハラは明るい林を好み、本州中部以北で繁殖します。
名前の通りお腹が赤いのが特徴で、この時期にはカラマツ林のなかで、

「キョロン キョロン チリリ」

と特徴的な声でよくさえずっています。

アカハラのさえずり

本州中部で繁殖するアカハラの多くはカラマツ林を好みます。
アカハラがさえずるところにはカラマツ林があるといってもいいくらい、アカハラの繁殖地とカラマツの分布域は重なり合っています。

なにかアカハラとカラマツ林の間には特別な関係がありそうです。

アカハラは開けた場所でミミズやイモムシなどの餌を獲りますが、子育てをするには身を隠せる安全な場所が必要です。
カラマツは開けた山麓高原によく育ち、アカハラにとって、餌場の近くに生えている木なので利用しやすいのでしょう。

でもそれだけでしょうか?

調べてみると興味深い記録を見つけました。

ツグミ科に属する[1]アカハラが、樹木の枝叉に営巣することは広く一般に知られているが、例外として人家の屋根に営巣した例を聞いたことがあった。筆者はこのアカハラが地上に営巣しているのを観察したが、珍らしい例と考えられるので此処に御紹介するものである。

野鳥の蕃殖はんしょく調査を日課の一ツにしていた1952年7月初旬に山梨県南都留郡鳴沢村で足元から突然飛び立った鳥影を追って歩を止めた、すぐ前方の松の木にとまったにはアカハラで、態度から育雛いくすう期の親鳥であることが知れた。カッ、カッと絶えずこちらを気にして鳴いている。巣立直後の雛が此の辺にいるものと思い、試に持参の棒切れで草原を払ってみたが、幼雛が飛びたつ気配もない。不思議に思いながら、傍の蕗の株に視線を向けた途端、黄白色の産毛の可愛い雛が三羽、一斉に大きな口を開けていたのには、自分の目を疑ったくらいであった。アカハラは地上に営巣する筈がないと信じていたからである。しかし蕗の根元の巣から首をもたげて餌を求めているのは紛うかたなきアカハラである。孵化後一週間位かと想像される雛は樹上に営巣している雛のそれに比べて肥満していて発育経過もよいように思われた。これは雛の数の少ないこともその原因であると思われるが、樹上の雛に対する給餌より地上に於ける給餌の方が容易であることもその一因と思われる。観察を続けた結果発育状況も樹上のものと比較して割合に早いようであったが、残念なことに発見が孵化後数日を経ていた為め最初から観察が出来なかった。

巣立後の巣を分解して検べた結果は次の通りであった。巣材は殆ど禾本かほん科植物で落葉や腐植土は全く使ってなく、分量も一般に比較すれば3/4程度の材料であり、したがって産座の深度も浅く発見時に雛の身体半分が巣からはみ出していたくらいであった。

営巣場所は松林約五反歩を伐採した後の日当たりの良い場所で、巣はその中心よりやや北側に位置し、約2メートル離れた地点に只一本アカハラの、かろうじてとまれる程度の小潅木があるのみで給餌の往復には殆どこの木を利用していた。附近には未だ切倒されて赤くなった松の細枝が散在して居り、これのみが巣の所在をカムフラージュする物体と云えるだけで、外敵防止の面では殆ど無関心状態で、この親鳥が何故にこの地を営巣に選んだかは謎のままであるが、この附近にアカハラの蕃殖するものが多いのは注目すべき事であると思われる。

アカハラの地上営巣 井出 進 1959

[1] 現在の分類ではヒタキ科。

小さな鳥にとって、地上に巣を作ることは、子育てが簡単でひなの巣立ちが早いという利点があります。その反面、雛が外敵に襲われる危険性は高くなります。
地上に営巣するルリビタキは、コメツガなどの針葉樹の林床に好んで巣を作ることが知られていますが、 その理由は、針葉樹林は広葉樹林よりも生物相が貧しく、それだけ外敵も少ないことが関係していると考えられます。

アカハラが地上からそれほど高くないところに営巣する例はあり、地上にも営巣することがあるならば、ルリビタキと同様の理由でカラマツ林を選んでいる可能性が考えられるのではないでしょうか。

(F)