群馬県と長野県の県境に位置する浅間山(2568m)は日本を代表する活火山のひとつです。
浅間山は活火山のなかでも特に活動が活発な山で、天明3(1783)年には、火砕流や土石なだれを伴う大規模な噴火を起こしました。土石なだれは北麓一帯を流れ下って鎌原地区を飲み込み、犠牲者477名[1]を数える大きな被害をもたらしました。
こうした火山活動は、その周囲にある谷や窪地を埋め、平らな台地状の地形を発達させます。悲劇の舞台となった鎌原地区がある嬬恋村では、火山活動によって作られた地形を生かした高原野菜の生産が盛んで、夏秋キャベツの日本一の産地になっています。また、高原リゾートとしての利用も進められ、浅間山が作り出す雄大な景観は訪れる多くの人たちの目を楽しませてくれます。
浅間山はこの地に、悲劇的な災害とともに豊かな恵みをももたらしてきたのです。
嬬恋村では、こうした浅間山が持つ大地の魅力(ジオ資源)について、より深く知ってもらう取り組みを進めています。さる4月28日には、浅間山のジオ資源を紹介するガイドのための研修会が行われました。研修には総勢24名が参加し、嬬恋村郷土資料館ボランティアガイドの宮崎光男さんの案内で、鎌原地区にある浅間山とゆかりのある名所・史跡などをを2時間かけて見て回りました。
「紹介したいところが多くありますが、なんとか時間通りに収めたいと思います」
と宮崎さん。手渡された「鎌原村・史跡めぐり地図」を見ると、30箇所ものポイントが記されています。
宮崎さんの解説とともに、数多くの生活遺品が出土した十日ノ窪、天明の大噴火を生き延びた大ケヤキ、土石なだれに埋もれた延命寺跡などを見て回った参加者からは、
「解説を聞いて、知らないことが多くあることに気づかされた」
「こうした地域の魅力が埋もれたままなのはもったいない」
「覚えることがたくさんあって大変!」
などの感想が聞かれました。
この地面の下には古い鎌原村が埋もれています。
そしてもしかすると、私たちの足元には、まだ知られていない地域の魅力が埋もれているのかもしれませんね。
ちょうど見頃を迎えたサクラやユキヤナギ、畑の脇に咲くスイセンが、研修会に彩りを添えます。
通りには昔作りの家が軒を連ね、庭先にはこいのぼりが青空のなかを気持ちよさそうに泳いでいます。
研修会の参加者たちは、浅間山の魅力とともに、こうした里山風景が作り出す雰囲気についても楽しんでいた様子でした。
[1]鎌原地区の犠牲者数について
天明噴火による鎌原地区の犠牲者数は資料により相違がある。
- 鎌原観音堂供養碑によれば犠牲者の数は477名
- 嬬恋村史編集委員会(1977)によれば犠牲者の数は466名
- 『吾妻郡誌』によれば犠牲者の数は483名
この相違は、災害時に受けた火傷やケガのためにしばらくしてから亡くなった人を犠牲者に含めるか否かで判断が別れたためと思われる。
(F)