春の日差しを受けて、ザゼンソウ(サトイモ科)の花が顔をのぞかせています。
ザゼンソウはミズバショウの仲間で、冷涼な湿地を好みます。 花びらのように見えるのは、仏炎苞と呼ばれるもので、いぼいぼの肉穂花序を包んでいます。 この様子が、僧侶が座禅を組む姿に見えることが名前の由来です。
肉穂花序
穂状花序の特殊化したもの。多肉な花軸の周囲に柄のない花が多数密生するもの。仏炎苞をもつ。
ザゼンソウはハスやヒトデカズラとともに、発熱する植物として知られています。
実際に鹿沢で今咲いているザゼンソウの発熱温度を計ってみました。
発熱部である肉穂花序の上に温度計を置きます。花が終わりに近づいていますがどうなるでしょうか。
地面付近の温度と比較します。
地面付近の温度は10℃。ザゼンソウの発熱部は14.5℃でした。
ハスやヒトデカズラは、発熱のためのエネルギーを短時間のうちに一気に使いますが、ザゼンソウの発熱は期間が長くて、温度が一定に調節されているところに特徴があります。
発熱温度 | 発熱期間 | |
---|---|---|
ザゼンソウ | 20℃ | 1週間くらい |
ハス | 30~36℃ | 2~4日 |
ヒトデカズラ | 40℃ | 6~12時間 |
ハスやヒトデカズラが発熱する理由は、においを拡散させる事によって、花粉を運ぶ虫を誘引するためと考えられていますが、そうであるならば、発熱温度は特に一定に調節される必要性はありません。
では、なぜザゼンソウには温度を一定に調節する機能が備わっているのでしょうか。
ザゼンソウの受精に最適な温度を調べた研究によると、その温度はザゼンソウの発熱温度に近い23℃であることがわかりました。
ザゼンソウの花は早春のまだ雪が残るころに開花します。開花したばかりの花は雌しべしかなく(雌性期)、やがて雄しべが現れ(両性期)、最後には雌しべがなくなり、雄しべだけになります(雄性期)。 これは自家受粉を避けるためで、ザゼンソウはほかの個体から花粉を運んできてくれるものがないと種子ができませません。
これらのことから、ザゼンソウが発熱を調節する理由は、
- 気温が低いときでも受精しやすい状態を作るため
- 訪花昆虫の活性が低い時期に開花するので、昆虫を誘引して受粉機会を得るには発熱期間を伸ばす必要があるため
などが考えられます。
ザゼンソウの発熱調節能力は、冷涼な環境への適応と関わりがあるといえそうです。
与えられた環境のなかで、限られた受粉の機会を大事に生かそうと、発熱して恋の訪れを待ち続けるザゼンソウ。 その努力が報われるといいですね。
(F)