浅間山の南西部に位置する長野県東御市は、雨が少なく日照時間が長いところです。
- 日本の平均年間降水量・・・1700mm
- 東御市の年間降水量・・・979.6mm
- 日本の平均年間日照時間・・・1850時間
- 東御市の年間日照時間・・・2109.8時間
これは海上の湿った空気が偏西風に乗って、日本海側や北アルプスに多くの雨や雪をもたらしたあと、乾燥した空気が浅間山の南西部に流れ込むためです。
この地域は火山地帯にあるため、土壌の多くは火山灰でできています。
火山地帯に形成される火山灰土壌は、直下に火山礫層を持ち、厚さが薄く、水持ちがよくありません。
湯ノ丸山、三方ヶ峰を水源とする所沢川は、この地域の利水を担う水源のひとつですが、流れが細いうえに急峻で、降った雨や雪解け水はあっという間に流れ下ってしまいます。
このため古くからこの地域の農業は水不足に悩まされてきました。
特に米作りには多くの水が必要で、雨が少ないと田植えができなかったり、田んぼにひびが入るなどの影響が出やすくなります。
このことは地域の田の神を祀り豊作を祈願する神事にも表れています。
刈谷沢神明宮(筑北村)で行われている「お田植え祭り」は、張り子の牛を連れた太郎と、田んぼの代かきの仕草をする次郎が、
「毎年、毎年いやでござる」
と言いながら境内を三回周り、 見物客、参拝客が水不足にならないように祈願しながら牛にめがけて雪を投げる、というユニークな祭りです。
この水不足の問題を解消するために作られたのが横堰池です。
横堰池は所沢川の水を貯めておく農業用の貯水池です。
貯めた水が地下へ通り抜けないように、内側をゴムシートで覆うなど、火山地帯ならではの工夫が見られます。
横堰池は、農業体験や美しい里山の景観をつくる活動をしている地元の市民団体が看板を整備するなど、この地域の貴重な水がめとして大事にされています。
ところで、この地域では今、日照時間の多さを生かした太陽光発電の普及が進んでいます。
太陽光発電は、原発震災を契機に自然エネルギーとして注目を集め、発電した電力の固定買取制度がそれを後押ししたことなどから急速に普及が進みました。
発電施設は年を追うごとに大規模化していて、景観や生態系への影響が議論されるようになっています。
この地域にくらす人々は、自然を生かし、環境に適応したくらしを築いていくために知恵を絞り、困難を克服してきました。
天に向かって雨を祈り、かんがいやため池を整備し、乾燥に耐えられる作物づくりに励んできました。
こうした取組みが実を結び、東御市は今や国内を代表するくるみやぶどうの一大産地にまでなりました。
そして今、新しい時代の、新しい課題に、新しい知恵が求められています。
自然環境について考えることは、人のくらしと自然のいとなみとの間にある利害関係に目を向け、両者がどのように折り合いをつけるのかを考えることでもあります。
自然との知恵比べ、自然への理解に終わりはありません。
(F)