第1部 防災から減災へ
2016年8月4日、国道146号線近くを流れる片蓋川付近に人が集まってきた。
浅間山ジオパーク構想推進協議会が企画した火山防災研修会だ。
「この川は普段は涸沢ですが、強い雨が降ると浅間山の火山堆積物を含んだ土石流がたびたび発生しています。 また、浅間山が積雪期に噴火をした場合、熱で周囲の雪が解けて火山泥流が発生する可能性があります。 ここでは、こうした予想される土砂災害を未然に防ぐための工事を進めています」
と講師役の国土交通省利根川水系砂防事務所職員。
その後、参加者は職員の案内で、普段は立ち入ることができない工事現場へ。
山裾を重機が行き交い、幅300m近い砂防堰堤の建設が進む。 対策規模の大きさに見学者一同から驚きの声がもれる。
「浅間山における防災事業の特徴は、事業規模が大きいということです。しかも工事区域の周囲は観光地で、一部は国立公園に指定されています。このため、災害による被害は減らしていく一方で、堰堤を付近にある浅間石と同じ色に着色して目立たなくするなど、景観上の配慮についても考えていく必要があります」
20世紀以降、浅間山では、記録のあるもののうち7回の火砕流が発生、その内4回が融雪を伴う火山泥流である。
今回の災害対策で想定される火山泥流の規模は、積雪が50cmの場合、27万立方メートルにおよび、 約8000戸が被災し、被害額は500億円にのぼるという。
ところが浅間山は過去に、この想定をはるかにしのぐ大規模な噴火を繰り返してきた。
1108年噴火 (天仁噴火)
総噴出量:1.2立方キロメートル (想定の444倍)
1783年噴火 (天明噴火)
総噴出量:0.5立方キロメートル (想定の185倍)
産業総合研究所 地質調査総合センター浅間山周辺の地形図を見ると、古い火山が集まる西側は長年の雨や雪による浸食を受け、谷が発達しているのに対し、近くに浅間山がある東側は過去に発生した火砕流や土石なだれ、山体崩壊などの影響で、 台地状の地形が広がっていることがわかる。
浅間山からの膨大な噴出物が、周辺の地形を一変させているのだ。
これについて、同事務所職員は、
「現在私たちが行っている対策は、20~100年に一度の規模の災害を想定したものです」
としたうえで、
「数百~千年に一度という規模の噴火に対処するには、より合理的なアプローチを考える必要があるでしょう」
と話す。
近年、大規模な自然災害に対処する考え方として、「減災」という言葉が使われ出している。
減災とは、災害時において発生し得る被害を最小化するための取り組みである。
防災が被害を出さないことを目指す取り組みであるのに対して、減災とはあらかじめ被害の発生を想定したうえで、その被害を低減させていこうとするものだ。
付近に活火山を抱える自治体や関係機関ではこの減災の考え方に立ち、
- 災害リスクをハザードマップ等によりわかりやすく伝えること。
- 平時から食糧・飲料など必要な物資を備蓄すること、または確保するための協定を結ぶこと。
- 避難の手順を確認しておくこと。
- 観測体制を充実させ、噴火の前兆を早期にとらえ、それを迅速な避難行動に結びつけていくこと。
などの対策を進めているところが目立つ。