第3部 火山が作り出す多様性
火山と温泉が集まる高原のリゾート地、上信越高原国立公園。
1949(昭和24)年に指定されて以来、多くの人々がこの地を訪れてきた。
浅間山はこの公園の核心部に位置し、火口周辺部は景観保護のための規制が最も厳しい特別保護地区に指定されている。 火山が作り出す独特の景観が広がり、付近には国の特別天然記念物であるカモシカや希少な高山蝶が生息する。
浅間山は大規模な噴火を繰り返しながらも、その都度自然は再生し、豊かな生態系を作り上げてきた。
ところで、世界初の国立公園として知られる、アメリカのイエローストーン国立公園には、公園設立に至った経緯について、こんな逸話が残されている。
かつてこの地方を探検した人々は、そこに広がる大自然に深く心を動かされ、
「この霊域はすべての人類、すべての生物に自由と幸福を与えるために神が創造されたもので、決して私有物にしたり、少数の利益のために開発すべきものではない」
として、政府にこの地を国民のために永久に保存することを求めたというのだ。
それほどの大自然を作り出すうえで中心的な役割を果たしたのが、アメリカ最大の火山、イエローストーン火山である。
火山が世界初の国立公園を誕生させたのだ。
さらに、近年の研究では、地球最初の生命は、海底火山の熱水噴出口付近で誕生したとする説が有力だ。
豊かな自然や生きものの営みと、火山とのあいだにある不思議なつながり――これは果たして奇妙な偶然の一致なのだろうか。
横浜国立大学の森章准教授は、火山噴火などの自然攪乱は、生物多様性を作り出すうえで役に立っていると指摘する。
「自然撹乱とは、台風、ハリケーン、サイクロン、山火事、火山噴火、なだれ、などのイベントにより、自然の生態系が破壊されることを指します。
たとえば、台風や山火事により森林が大きく撹乱されると、樹木が倒壊あるいは枯死したところでは、新たな開いた空間が形成されます。 そのような場所は、一見すると荒廃地に見えますが、実はさまざまな生物に住み場所を提供するとともに、自然のプロセスとしての森林再生の場ともなります。
人間社会が存在する前から、さまざまな生き物は自然撹乱にさらされ、育まれてきました。
一方で、自然撹乱は、人間社会に災害をもたらすものでもあり得ます。 人間社会は様々な自然災害と向き合ってきました。
しかし、その中には、災害を防止しようとして、社会にも自然にもさらなる問題が生じた事例がたくさんあります。 たとえば、洪水が頻繁に起こる地域において、農地転換のために水路を作り、洪水を抑制しようとした結果、 逆に干ばつが生じるようになったり、地域の生物相が絶滅の危機にさらされたり、農地排水による富栄養化のためにアオコが発生するなどといった問題が生じたことが知られています。
このように、自然の撹乱を抑制しようとする試みは、ときに非常に手痛いしっぺ返しとして社会に跳ね返ってきます。
ゆえに、最近では災害として捉えられがちな自然撹乱を抑制するのではなく、むしろ社会や生態系に必要な変化を生み出す要因であると捉え、促進することが重要と考えられるようになっています」